今ではコンビニでも手軽に手に入る身近なお菓子ですが、実はその歴史は16世紀のヨーロッパ王室まで遡る、極めて格式高いものだったことをご存じでしたか? 実は、一国の王妃の結婚がなければ、このお菓子は生まれなかったかもしれない……そんなドラマチックな背景が隠されているんです。
1. 1533年、イタリアの姫君がフランスへ持ち込んだ「革命」
シュークリームの物語は、1533年、イタリア・フィレンツェの富豪メディチ家の令嬢、カトリーヌ・ド・メディシスが、フランスのアンリ2世に嫁いだことから始まります。彼女は当時の最先端の食文化をフランスへ持ち込みましたが、その中にお抱えの菓子職人たちが作る「生地」の技術がありました。
1540年頃、その職人の一人であるポペリーニ(Popelini)が、熱した生地を乾燥させて焼くという特殊な技法を開発。これが、現在のシュー生地の原型である「パット・ア・ショー」の始まりです。その後、19世紀に入り、「シェフの王」と称えられたアントナン・カレームが、中にクリームを詰める現在のスタイルを完成させたと感じています。300年以上の時をかけて、多くの職人たちの手が重なり、ようやく今の完璧な形になったんですね。

2. 名前の由来:なぜお菓子が「キャベツ」と呼ばれたのか
さて、このお菓子の名前に込められた、少し意外な語源をご紹介しましょう。フランス語で「シュー・ア・ラ・クレーム(Chou à la crème)」。実は「シュー(Chou)」とは、野菜の「キャベツ」を意味しています。
なぜキャベツなのか? その理由は、焼き上がって不規則に膨らんだ丸い生地の質感が、まるでキャベツの葉が重なっているように見えたからという、非常に素直で愛らしい理由によるものです。フランスでは大切な人を「Mon chouchou(私のキャベツちゃん=愛しのあなた)」と呼ぶ習慣がありますが、「見た目も中身も、愛される存在」という意味が込められているようで、なんだか素敵な偶然だと思いませんか?
ちなみに、日本ではフランス語の「シュー」と英語の「クリーム」を組み合わせた「シュークリーム」という呼び名が定着しましたが、英語圏では「クリーム・パフ(Cream Puff)」と呼ばれます。国は違えど、そのふわふわとした質感への愛着は共通しているんですね。

3. 明治時代の横浜。日本人が初めて出会った「魔法の泡」
日本にシュークリームがやってきたのは、明治時代初期のこと。1884年(明治17年)に、横浜の山手でフランス菓子店「三宅亭」を営んでいた三宅源常という人物が販売したのが、最初の一歩だという記録が残っています。
当時の日本人にとって、空気のように軽い生地の中からクリームが溢れ出す感覚は、まさに魔法そのもの。大正時代から昭和にかけて徐々に高級菓子として広まり、戦後の高度経済成長期に冷蔵庫が一般家庭へ普及したことで、爆発的な人気となりました。「家族みんなで楽しめる、ちょっと贅沢なおやつ」という日本独自のポジショニングは、こうした技術革新と職人の努力によって築き上げられたものだったんですね。

まとめ:シュークリームの物語を振り返って
- 起源は1533年、イタリアからフランス王室へ渡った技術。
- 「シュー」はフランス語で「キャベツ」。見た目の愛らしさが由来。
- 19世紀にアントナン・カレームが、現在のクリームを詰める形を完成させた。
- 日本初登場は1884年の横浜。昭和の冷蔵庫普及とともに「国民のおやつ」へ。
長い歴史の中で、王室の贅沢品から、私たちの日常の「ちょうどいい」幸せへと進化を遂げてきたシュークリーム。次にその丸いキャベツのような形を手に取るときは、ぜひ300年以上前の王妃や職人たちが守り抜いた、その「サクサク」と「とろーり」の奇跡を感じてみてください。いつものティータイムが、きっと特別な物語に変わるはずですよ。

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