大地の香りに癒やされて。よもぎ餅の緑が「母子草」から「よもぎ」へ変わった意外な理由

和菓子
近所の公園を散歩しているとき、ふと足元から立ち上がる若草の香りに、春の訪れを実感することがあります。そんな時、無性に食べたくなるのが「よもぎ餅」です。あの力強い緑色と、鼻に抜ける爽やかな香りは、まさに大地のエネルギーそのものだと感じます。

古くから「ハーブの女王」とも呼ばれるよもぎを使ったこのお菓子。実は、今の形になるまでには1000年以上の長い歳月と、ちょっと意外な「縁起」へのこだわりがあったことをご存知でしたか?

平安時代に変遷した「主役の交代劇」

日本で「草餅」を食べる習慣が始まったのは、平安時代よりもずっと前、中国から伝わった文化がきっかけでした。当初、3月3日の上巳の節句(ひな祭り)に食べられていたのは、実はよもぎではなく「ハハコグサ(母子草)」という植物だったのです。

当時の人々は、健康を願ってハハコグサを餅に練り込んでいました。しかし、平安時代中期から江戸時代にかけて、徐々に主役がよもぎへと移り変わっていきます。その理由は、ハハコグサの名前が「母と子」を指すため、餅としてつく(搗く)ことが「母と子をなで切りにする」ようで縁起が悪い、と考えられるようになったからだと言われています。日本人の優しさと繊細さが、お菓子の歴史を変えた瞬間だったんですね。

「魔除け」としてのよもぎ

代わって主役となったよもぎには、強い香りがあることから「邪気を払う」力があると信じられてきました。また、古くから傷薬や灸の材料(もぐさ)として重宝されていたため、よもぎ餅を食べることは、一年の無病息災を願う大切な儀式でもあったのです。今私たちが美味しくいただいている一切れにも、健やかな暮らしへの祈りが込められていると感じると、少し背筋が伸びる思いがします。

なぜ「よもぎ」?名前に秘められた3つの説

「よもぎ」という少し不思議な響き。その語源には、当時の人々の観察眼が光るいくつかの説が存在します。代表的なものを1つのセクションとしてまとめてみました。

1. 善く燃えぎ(よくもえぎ)説
お灸に使う「もぐさ」として、よく燃える草であることから。これが最も有力な説の一つとされています。

2. 蓬ぎ(よもぎ)説
四方に蔓延(はびこ)る、つまり「四方(よも)」へ「生ぎ(ぎ)」るほど生命力が強いことから。

3. 揉み草(もみぐさ)説
餅に練り込む際によく揉むことや、傷口に揉んで当てたことから「もみ」が転じたという説。

どの説を信じても、よもぎがいかに私たちの生活に密接に関わってきたかが伝わってきますよね。

シンプルだからこそ響く、本物の味わい

最近では、一年中食べられるようになったよもぎ餅ですが、やはり春の芽吹きの時期の香りは格別です。上質な粒あんの甘さと、少しほろ苦いよもぎのコントラストは、まさに「ちょうどいい」大人の贅沢。一口噛みしめるごとに、身体の中まで春の空気が満たされていくような感覚になります。

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よもぎ餅って、手にした時のあの指に吸い付くような柔らかさが幸せですよね。私は、よもぎの繊維が少し残っているような、野趣あふれるタイプが大好きなんです。香りが強いほど、春を食べている!という実感が湧いてきませんか?

長い歴史の中で「母子草」からその座を受け継ぎ、魔除けや健康の象徴として愛されてきたよもぎ餅。次に召し上がる際は、ぜひその力強い緑色の奥にある、平安時代から続く「祈り」の物語を思い出してみてください。

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